ようやく機械の音が止まったころには顔は涙でぐちゃぐちゃで、体じゅうに汗もたくさんかいていた。
倉木さんが涙を拭いて前髪も軽く整えてくれる。
終わりかと一瞬思ったけど、芳野先生が治療前にしていた説明を思い出す。根っこのお掃除っていうやつをまだやってない。
恐る恐る視線を動かすと、先生は説明のときに見せてくれた針みたいな器具を手に取っていた。その器具はそのまま口元に近づいてくる。先生の指が唇に触れた。
「ひぅ」
「根っこの中綺麗にしていくよ。泣いても大丈夫だから、動かないのだけ頑張ってくれるか」
そんなに痛いの? 嫌だ、怖い……。
そんなことを言えるはずもなく、頷く。
「じゃあごめんな、ちょっと押さえるよ」
芳野先生が左腕で私の頭を抱えるように固定する。倉木さんが私の手を握る。
「っ、うぅ……」
涙がぽろぽろとこぼれる。
私が泣くと芳野先生は待ってくれることが多かった。でも、今は違うみたいだ。
「これやったら今日は終わりだからな、頑張ろうな」
「お水を吸う機械入れるよー、あーん」
倉木さんが片手は私と手を繋いだまま、小さく開けた口の隙間に機械を入れる。
「もう少し開けようか」
先生が指で内頬を押さえる。
「そのままな」
先生の手が口元に近づく。器具が口の中に入ってきて歯に触れた。
「いっ……」
チクンとした痛みに跳び上がりそうになったけど、すかさず「動かないでな」と芳野先生に釘を刺される。体をこわばらせていると、コリコリという感触とともに器具が歯の中へ入ってきた。
「あ、はぁ……ああぁ……っ」
なにこれ……痛い。気持ち悪い。
歯の奥まで器具が入るとグリグリとかき回され、引き抜かれた。
「あぁん!」
びくっと体が跳ね、涙が溢れる。
口を閉じようとすると芳野先生の指が内頬を押さえ、それを許してくれなかった。
「あーん。もう一回頑張ろうな」
今のを、もう一回……?
芳野先生の手にはさっきと同じ器具。
「いや……」
震える声がこぼれた。首を横に振りたいのに、先生の腕で押さえられていてかなわない。
「和瑚ちゃん」
「いや……よしの、せんせ……も、やだぁ……」
ぼやけた視界の中、先生の眉間にぐっと皺が寄ったのがわかった。
「ごめんな」
先生の指が口の中を広げ、器具がまた歯の中へ入ってくる。
「や、あぁ、あ、」
「和瑚ちゃん、あとちょっとだからね、頑張ろうね」
倉木さんが私の手を離して体を押さえた。
「おっきく開けような」
力の入らない口の端を先生が引っ張る。ゴリゴリと歯の中を擦られる。
恥ずかしいと思う余裕もなくなり、私はいつのまにか声をあげて泣いていた。
「痛いよな……」
ぽそりと芳野先生の声がする。先生はちっとも痛くないはずなのに、どうしてかとても辛そうな声だった。