少し長めに休憩を取ってくれた後、兄ちゃんが尋ねた。
「そろそろいいかな?」
「……うん」
ライトがつけられ、唇と歯茎の間にロールワッテが置かれる。あとは詰めるだけとわかっていても緊張して、涙を拭いたタオルを握りしめた。
「風かけるよ」
「んっ」
シューッと長めにかけられたエアーが沁みる。そう、詰めるだけでもこんなふうに痛くないわけじゃないし。
「歯と歯の間に壁を入れるよ」
1番と2番の間にストリップスが入れられる。こういう異物感も苦手だ。
「謙斗、もう痛いことないよ」
ずっと俺の体に力が入っていることに気づいたのか、兄ちゃんが声をかけてくれた。
言われた通り、その後はレジンを充填して硬化し研磨するだけだったので痛みはなかった。
「いーってして……次、あーん」
最後に表と裏から右上2番を確認した兄ちゃんは、うん、と頷いてミラーを置いた。その声と仕草はどこか満足げだ。
「おしまいだよ。起こすね」
診療台が起こされたので、うがいをしてコップを置く。恐る恐る虫歯だった歯に舌を這わせてみた。
穴、空いてない。ツルツルしていて他の歯と比べても違和感がない。見た目は……?と気になっていると、兄ちゃんが横から手鏡を渡してくれた。
「確かめてみて」
小さく口を開け、唇を少し引き上げて鏡に映してみる。
「わぁ……」
「どう?」
兄ちゃんも鏡を覗き込んできた。
「すごい」
治療する前より綺麗だ。歯とレジンの境目もほとんどわからない。
「ありがとう。治してもらってよかった」
横にいる兄ちゃんに顔を向けて言うと、兄ちゃんはくしゃりと笑う。唇の間から、虫歯になったことのない白い歯がこぼれた。