待合室に戻ると、受付で会計をしていた患者さんと目が合った。よく知った顔が目を大きく見開く。
「城戸先生……」
やはり隣のユニットにいたのは青海だったのだ。軽く会釈をして近くの椅子に腰掛けた。
「次の予約ですが」
「あっ、はい」
「お時間は1時間程度かかると思います。いつにされますか?」
受付の前に椅子が4脚並んでいる小さな待合室。会話は筒抜けだ。今日は検査だけで次回治療をすることになったのだろうとすぐにわかってしまった。あさって土曜日の最終枠を指定する青海の声も聞こえる。俺たちの勤務先は土曜日の診療が17時までなので、俺もその時間に来たことがあった。
「お大事に」
財布を鞄にしまい、青海が俺を振り返った。
「お疲れ様です。城戸先生」
「ああ」
怒られたにしてはいつもと変わらず明るい表情だ。
数日前に動画の話をしたとき、青海が本当は歯のことを気にしているのかと思ったが、勘違いだったらしい。
もう少しくらい怒られたほうがよかったのかもな。一瞬でもそんな、診療室で見ず知らずの患者さんだと思っていたときとは全く違うことを思ってしまい、とんだダブルスタンダードだと自己嫌悪感が募った。
「城戸先生は検診?」
「そうだな」
「そっか。俺も検診。久しぶりに来てさ。ほら、悪い宣伝にならないように先に診てもらっとこうと思って」
こんな内容を世間話のような気軽さで口にするなんて、さすが虫歯を気にしないやつは違う。俺は話題にしたくなかったが無視はできず、そうか、と相槌をうった。
「よかったよ、診てもらって。……虫歯、見つかっちゃった」
青海がへらりと笑う。
ところがすぐに口角は下がり、目が潤み始めた。
「青海?」
思わず立ち上がると、青海が俯く。
「おい、」
自分で自分を抱きしめるようにしている腕につい触れそうになる。しかし青海は俺を拒むように出入口のほうへ足を向けた。
「ごめん。また明日」
「待——」
追いかけようとしたが、ちょうど「城戸さん、お待たせしました」と受付から呼ぶ声。それに気を取られた隙に、青海は足早に外へ出て行った。