お買い物の番外編

 アクセサリーショップを出ると、ビルと道路からの照り返しが眩しかった。メインストリートは涼しげな格好をした人々が大勢行き交っている。
 こういう賑やかな場所に来ることは少ない。楽しいが、少し疲れた。軽く息をつくと、隣にいた早瀬が俺の顔を見やった。
 
「お茶でも飲もっか」
「そうだな」
「行きたい店とかある?」
「特には」
「じゃあさ、あそこ行こ」
 
 早瀬が指さしたのは、道路向かいのビルの2階。カフェのようだ。こいつが連れて行ってくれる店は間違いない。提案にのることにした。
 歩きながら早瀬が話す。
 
唯蕗いぶきが言ってたんだけど、デザート⁠が美味しいんだって」
「デザート?」
 
 珍しい台詞に、少し声が裏返った。
 数歩先を歩いていた早瀬が振り返り、けらけら笑う。
 
「なに今の声」
「いや、いいのかお前」
「なにが」
「甘いもの食べるのか」
「食べるけど? いつだったかも一緒にポッキー食べたじゃん」
「……普通に食べただけだからな」
「普通に食べたよ?」
 
 そんなことを話しながらカフェへ入る。レトロというのだろうか、少し古風な雰囲気の店内は、外観から想像していたより広い。
 一席空いており、すぐに座ることができた。
 
「何にする?」
 
 早瀬がテーブルの端に立ててあったメニューを取り、デザートのページを開く。
 ケーキ、パフェ、パンケーキ……様々なメニューが写真と一緒に並んでいるが、その中の一つ、三段重ねのアイスクリームに目がとまった。
 
「俺はこれにする。コーヒーセットで」
「お、いいね〜」
「本当に何も言わないんだな」
「何を?」
「いつもなら甘いものは云々とか言ってくるだろ」
「いや、さすがにね? 無粋っしょ。こういうときは楽しまないと」
 
 俺はどうしよう、と呟きながら早瀬がメニューに目を落とす。しばらく眺めた後、何気なくという様子で早瀬が1ページ捲った。するとすぐに「あ」と小さな声。
 
「これにしようかな」
 
 早瀬が指さしたのは、青いソーダにバニラアイスクリームとさくらんぼがのったソーダフロートだ。
 
「絵に描いたようなソーダフロートだな」
「ね。意外とこういうの少なくない? 昔ながらの喫茶店にありそうな感じっていうか」
「言われてみればそうかもしれない」
「この店に似合うよね。——あ、すみません」
 
 傍を通りかかった店員を呼び止め、早瀬が注文する。
 メニューが回収され、それから10分ほどだっただろうか。話しながら待っていると、アイスクリームとコーヒー、それからソーダフロートがほぼ同時に運ばれてきた。
 
「柊崎の、メニューの写真より大きくない?」
 
 パフェを盛るような器に3つ重ねられたアイスクリームを見て早瀬が笑う。
 
「お前のもアイスが多くないか?」
「たしかに、写真よりは。でもいい感じ」
 
 細長い指をグラスに添え、早瀬がソーダフロートを眺めた。そのガラス玉のような瞳の中で、まるでソーダの泡が弾けて輝いているように見える。
 
「ん?」
 
 なに?と言いたげに視線がゆっくりとこちらへ移動してきて、俺は目が離せなくなっていたことに気づいた。
 
「あ、いや……」
「なんか見てたでしょ」
「……本当に好きなんだなと、思った」
 
 そういうのが、とソーダフロートを指さす。
 
「俺、そんなに嬉しそうな顔してた?」
 
 早瀬は軽く唇を尖らせ、ふいと目を逸らすとスプーンを手に取った。
 
「食べよ。溶けるよ」
「ああ」
 
 自分のアイスを掬いながらそっと盗み見た早瀬の表情はまた先程のようなものに戻っていて、俺もつい頬が緩むのを感じた。